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葛布について

 
静岡県掛川市にて、今もなお細々ながらも生産されている葛布・・・
でも、ほんの数人の作り手しかおられないと思いますが。

葛というのは、なんと有用な植物なんでしょう。
マメ科の植物で、何処の山野にも空き地にも生育しているし、我が住む町の川の土手にもいっぱいの葛が生い茂っています。
葛の根は、葛粉として和菓子や葛湯とかの食用にも、また、風邪の薬・葛根湯としてもよく知られています。

葛粉に熱湯を注ぎ、砂糖としょうが汁を少々たらして飲むと体も温まるし、とてもおいしいですよね。
葛の葉は、草木染として利用すると、シルクをとてもきれいな緑系の裏葉に近い・竹染めのような色合いに染まります。
染め上がった絹をなでるように愛でたことが思い出されます。

さて、葛は、まだ機が完成されていなかった時代・縄文時代の頃といわれていますが、編んだり、組んだりして、袋とか籠ようなものとかに用いられていたと考えれています。
現在でも、葛つるの籠を楽しんでいる方は多いですが・・・
科・楮・藤などと同じように、木綿(ゆう)と総称され、靭皮繊維を糸として織るということに使われました。
養蚕の技術と絹織物の技術が伝来されてから、飛鳥から天平にかけて、朝廷を中心として用いられるようになり、原始布であるこれら木綿(ゆう)と称せられるものは、どちらかといえば一般庶民の衣類になっていったようです。
でも、一部の貴族や武士の夏衣として、特に、袴として用いられ続けてきたようです。
葛布をご覧になった方はお分かりと思いますが、現在利用するとしたら、ベストとか、バック、センターとか、障布とか・・・
ちょっと硬めで張りがある粗布ですが、とても光沢があることにお気づきでしょう。


我が家にも、カモマイルで染めた葛布が残っていますが、何分にも、猫がその間仕切りに登り上がって傷めてしまうために、今は、暗所に寝せております。
そうじゃなくても、所々糸が出ていたりするしね。
でも、猫にすれば、詰めが引っかかり登りやすいのかもしれませんね。


さて、話がそれてしまいましたが・・・

葛の蔓は、梅雨に入った6月頃から、残暑厳しい9月の末頃まで採集できます。
葛蔓は、地面を這うように伸びていますが、繊維として利用する場合は、なるべくまっすぐに伸びている蔓を利用します。
蔓を利用して籠などを作る場合は、なるべく長いほうがよいですが、繊維として利用する場合は、切りやすい長さ、
つまり・・・
左手に一方の蔓をつかみ、まっすぐに伸びているかを確認するようにしながら右手を蔓を這うように外側に持っていくと、ちょうど両の手を広げた状態になります。
効率よく切るためには、ちょうどその長さくらいがいい。
もちろん葉っぱは切り落とします。
染めたい場合は、その葉っぱを染めたいものに応じて、とっておきます。
切り取った蔓は、10本一単位くらいにして、丸めて束ねておきます。
それを繰り返し、必要量と切り取ります。
一般に言われているには、50キロの生葛から取れる繊維はわずか1キロほどとのことです。

切り取って束ねた葛蔓は、翌日には、30分ほど煮てから、川で半日くらい晒すそうです。
ススキとか蓬とかの草で室をつくり、つまり、地面の上に草で囲いを作り、その中に葛蔓を並べて草で覆うことをします。
さらに、その上にビニールシートで覆っておきます。

サツマイモの室つくりとも少しは違いますが・・・
地面に穴を掘って、ワラやスクモを敷き、その中にサツマイモを入れ、ワラで覆うようにして、土をかけます。
雨水などが入らないように、近所の農家の人たちは、ハウスの中で作っていますが、我が家では、昔は、竹薮の中にあった防空壕の中にサツマイモの室がありました。
ちょっとだけ子供の頃を懐古中・・・

2〜3晩、放置すると、皮は柔らかくなり、ぬめりがでています。
そうそう・・・また、それてしまいますが・・・
梅干を作る時も1晩、2晩、というような表現ですよね。

腐ってやわらかくなった外皮を川で洗い流します。 「ぶち洗い」というそうですよ。
洗い終わった葛は乾燥させないように注意して、外皮と芯の間の靭皮繊維が、糸となるので、洗った蔓をしごきながら、芯を抜いていきます。
芯を抜いた繊維に絡まった余計な苧綿(おわた)を取り除き、端をそろえて(尾ぞろえ)50本づつまとめて先端を束ねて置くそうです。
そして、さらに、尾ぞろえした葛を川で洗うそうな。
洗い終わった葛は、その頃には、きれいになっています。
洗いあがった葛を績むときにすべりがよいように糠水につけて、軒先などに板場づつ干して乾燥させ、生乾きのときに、繊維をしごくように伸ばすことによって伸びてきれいに仕上がります。
このことは製品が汚れた時に洗って陰干しをして、仕上げのアイロンをかけるときの作業とにていますでしょ。

この時には、50キロの葛がわずかに1キロとなっているそうですよ。
それから、束にした繊維の1本ずつを爪で細かく裂いて、裂いた1本の繊維の根元ともう1本の繊維の先端を、葛結びという結び方でつなぎながら、おぼけという籠の中に入れていきます。

織るためには、おぼけの中に入っている糸をひっくり返して、糸口を右手で持って、左手に持った箸に8の字を描くように巻きつけます。(葛つぐりと言う)杼に入れるために、撚りがかからないようにするための方法だそうですよ。

葛を採集してから、仕上げの洗い作業をするまでも1週間近くもかかりますが、さらに、葛績みをし、つぐりを終えるまでに、2ヶ月間もかかるそうです。
それから、機織するわけですね。
とても大変な作業です。

日本で唯一現在従事されている川出幸吉商店の方には、大変な作業ですが何とか続けて、後継者も多く現れてくるといいですね。

今年の夏は、遊び程度ですが、芯抜きをして苧綿取りをするところまで試みてみようかな。

葛の葉っぱは、真綿でも染めて・・・楽しむことにしましょうか。
でも、採集時期は早めのものを・・・
時間がなかったら、籠作りに挑戦かしらね。


ちなみに、葛粉は、葛の根っこを掘り上げて、その根っこをよく洗い、細かくして煮て、その灰汁を捨て、それを繰り返して、最後に白い粉が残ったと思います。
穴掘りも大変ですよ。
なんと、地には人間にとって有用な植物があるのでしょうか。
すべて、人間のために備えられているような気もします。
感謝をこめて、この地を大切に管理していきましょうね。


 

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